全身と咬合・新五輪の書−臨床編


紙上研究発表

全身と咬合・新五輪の書−臨床編
中 谷 紀 之
日本口腔生体医学研究会 泉佐野市 開業

はじめに
 1995年近畿北陸地区歯科医学会雑誌に、2足直立と咬合についての演繹解析を発表させて頂
きましたが、近年ようやく厚生労働省にも「咬合の全身に及ぼす影響」を研究する機関が設置
され、一般生活,プロスポーツを問わず、巷間「噛み合わせと全身疾患」の関連が取り沙汰さ
れるようになって来たことは、歯科医学の質の有り方が一般国民にも再評価され、大変喜ばし
い事と思う反面、また責任もそれだけ大きくなって来たなと言う事だと思います。思い起こせ
ば31年前、人工透析を受けていた総義歯難症例患者3名(S字状咬合曲面、過屈曲咬合曲面、逆
湾曲咬合曲面患者)を、未だ世界中の歯科医学界で未発表の方法で配列装着すると、総義歯が
痛くなく、その結果顎堤の骨吸収も殆ど無く、おまけに何と透析を打ち切ることが出来たので
した。
 (但し、人工透析期間が未だほんのわずかであった人達でした。)とは言え、長期にわたり
透析を続けておられる患者でも、この臨床実践咬合論を取り入れて頂けるならば,少しでも負
担は軽くなったのではないかと思われますのでご報告いたします。

方  法
 先ず,95年版があればそれを参照しながら以下良く図1の真ん中の一番小さい円をご覧下さ
い。



この円は咬合5円環の内の1つで、上下前歯の接触点(A線)と乳様突起とそして,頚椎7番
横突起中央点とで作る三角形の重心の軌跡を描いたものです。この作業をするには必ず]線セ
ファログラムが必要です。21世紀の歯科医業には矯正専門医でなくとも,X線セファログラム
は常設の要有りと認めざるおえません。
オーソトレイス用紙に]線を写し取り原稿とOHPを作ります。次に半調節性の咬合器を用意し
ます。矢状・側方顆路角は固定しておく。何故なら顎関節は咬合器の要求する動きはしない。
(,01年近北学会誌に発表)
フラッグ付きの咬合器が必要です。これは頚椎カーブを咬合曲面に写し取る作業のためです。
メタルフラッグ上に紙を貼り、正常の頚椎カーブ(前湾)であれば、OHP紙をフラッグに当て
て、その中にカーボン用紙を挟んで、スマイルラインを写し取ればそれで良いのです。
しかし、有歯顎・無歯顎を問わず難症例はそう簡単には行きません。頚椎がS字状や過屈曲やC
型カーブ(逆湾曲)の時には、OHPの図を反転して80パーセントの縮小OHP図を作り、頚椎S字
状の変換点(頚椎3番4番の境界点)とS字咬合曲面の変換点(プライオリティは下顎の5番6番
境界点)の80%縮小頚椎図と、等倍咬合曲面セファロ図を対面させて、前方へ倒しながら縮小
図の頚椎ラインをセファロ図の咬合曲面に合わせるとピタリー致します(図2)。



では何故難症例には80%の縮小図が有効なのかと言うと、歯列には馬蹄形のアーチがあるので、
セファロは一方向にしか]線を照射しないため、下顎の3から3までは圧縮されて写りますが、
第1小臼歯から最後臼歯までは比較的直線的なので略等倍と考えてやっても致命的失敗にはな
りません。但し、難症例の場合は左右セファロを撮って左右のフラッグに写し取るのがベター
です。フラッグ上の]・Yゼロ点から半調節式咬合器のコンダイル方向(臨床的には乳様突起)
へOHPを写し取りますが、年齢、性別運動能等の生活習慣を加味して、多少ラインを加減して
やるとなお一層結果が良い。この頚椎3/4、咬合下顎5/6の中心点(C線)を合わせるのは全
ての難症例に当てはまります。下顎の5/6境界部は咬合応力中心であることは、世界の歯科医
学界の常識として公認されています。フラッグにラインを写し取った後は、コンパスを用意し
ます。上下前歯接触点にコンパスを合わせます。コンパスの片方をフラッグのラインに合わせ、
もう一方を蝋堤に合わせて頚椎ラインを印記します。そのとき、蝋堤に当てる方の先っぽを手
造りのデイスポーサブルナイフの先に替えた方がよりやり易いでしょう。そして咬合曲面通に
写真のように配列やワックスアップすれば正確に頚椎カーブを写し取ったことになります。
(図3)前歯の配列のラインはと言うと、パノラマレントゲンを上下顎の馬蹄アーチの曲率に
スタディモデルに合わせて曲げてやり、そのときの歯槽部のラインを、有歯顎、無歯顎にかか
わらず写し取ってやれば良いのです。プライオリティは臼歯群なのでそれほど難しいことでは
有りません。半調節式咬合器の前面の左右に粘土玉を作り、その玉の上に竹串を立て厚紙を瞬
間接着剤で止めて、フラッグ状のものを作り、写し取るという簡単な方法です。
しかし、臼歯部は金属製のしっかりしたものが、頚推への負担を軽減してくれるので必要です。



考  察
 近年デンタルインプラントを臨床的に導入される事が多くなって来つつあります。遊離端を
はじめとする臼歯群の症例が多いと思いますが、頚椎(脳幹部:延髄は脳内と頚椎3番までを
行ったり来たりピストン運動している)を写し取っているんだと言う自覚がないと、インプラ
ントは骨性癒着しているが故に(放熱機構を持たないが故に)頚椎ラインを正しく反映出来な
ければ、将来的に施術側・被施術側共に泥沼の訴訟合戦や、患者が歯科以外の致命的な病態に
陥らないとは限らないだろうと思われます。
矯正専門家達は今でも基本的にはツイードトライアングルに代表されるセファロ分析法やその
亜流を、直線を多用して分析を試みているのが現状です。当研究会はコンパスを使って分析し
ていく手法をとり咬合と全身が解明出来ました。図4でのB e f o u rとA f t e rのごとく、
S ellaを中心としてコンパスを引くと、その応力中心ベクトルは臼歯5/6と頚椎3/4を覆う事
が確認出来ました。また、手技整復で頚椎が整うと、ヒトの2足直立の重心線lは、頚椎3/4の
前湾に接する事も、AXIS(第2頚椎)の正常後方傾斜も確認済みです。
(図5)はフラッグ通りに配列された状態。



結  論
 咬合平面と言う概念は,正常咬合者が運動能の不足で、腹に肉が付き重心が踵荷重に見られ
るように後方位になり,脊柱起立筋が緊張して、頚椎3/4が後下方に引っ張られて、ミリタリ
ーネック(直立頚椎)となった或る種の病態に近い状態を言うのであって、咬合の規範の基本
形では決してない。咬合平面なるものは、正常態(スマイルライン)が病態に移行する過程に
於ける一形態であって、ガイドラインにする程の基軸性のあるものではありません。あくまで
も頚椎正常前湾は、咬合のスマイルラインに相関します。また、後下方変位は、歯科的には、
経年的に筋群が弱り、臼歯群を喪失してから起こります(それだけでも頚椎と咬合の関係が判
ります)が、交通事故の所謂ムチウチ症等は、瞬間に起こり得ます。頚椎は側貌から見れば、
後下方に45度元々傾斜していてズレ易い形状なのです。ダルマ落としやカンナの刃を出すのに
カンナの後方を木槌で軽く叩くのと同じ事と考えて下さい。友人に背中を軽く叩かれて頭がク
ラクラし、首が痛くなった経験をされた方も多いと思います。よって、モンソン球面説は異常
に曲率の大きな円になり、これも臨床的にはありえないし、ましてや歯科医学界の規範とはな
り得ないのです。前歯接触点(A線)と最後臼歯遠心点(P線)又は乳様突起からそれぞれ円弧
を描き、その交点にコンパスを当て、前歯接触点から咬合器上のコンダイルに描かれるスマイ
ルラインこそが、本当の咬合の規範になり得ると考えられますので,是非追試(再現性)して
確かめて下さい。そのスマイルラインより挺出していればカットすれば良いですし、ただし、
頚椎手技整復してから、その状態のセファロを写し取ることが大切です。しかし、整復操作し
ても、S字や過屈曲やそしてC型頚椎が残る場合は、そのままをフラッグに印記します。そうす
れば、デンタルインプラントは正常に機能し、デンチャーは痛くなく顎堤の吸収も殆ど無く、
硬いものでも良く噛めて、唾液もよく出てくれて、そして、齢を重ねてもボケないで、病態に
陥ることも極端に少なくなり、沈滞気味の歯科医学界全体が一般国民に再評価を受けることで
しょう。また、このシステムは、歯科医師と歯科技工士の両方が協力的に行うテクニックであ
り、バラデンタルチーム全体にやる気と活気を起こさせます。21世紀は全身咬合と再生医療の
時代でしょう、しかし、適性咬合なくして再生医療の成功は成就し得ないでしょう。
さいごに
 咬合5円環説の解析には林をはじめ,東大宇宙研,HONDAロボット工学研の各諸氏には解析に
ご協力頂き本当に有り難うございました。
−合掌−

参考文献
1)M.A.CLAUZADE B.DARRAILLANS CONCEPT OSTEOPATHIQUE DEL’OCCLUSION
  71−73,152,226−228,325−334,1989
2)小滝 透 ヒトはなぜまっすぐ歩けるのか,52−56,275−282 第3書館,1996
3)桧 学 めまいを考える 13−24,480−486,金原出版 1997
4)林 益人 交通損傷解析 36−42 ☆全生医道会 1989
5)Sotomi Oketani The Real Report of the Oketani’s ManualTechnique of
  Breast Treatment −The Practice− 16−51 ☆Ikuo Sagahara 1992